町田そのこさんの『わたしの知る花』を読みました。
静かに心に沁みるような、寂しさと優しさが共存する物語でした。
人は、誰かにとって善人であり、誰かにとっては悪人かもしれない
この物語では、平さんというひとりの人物が、複数の登場人物の視点から描かれます。ある人にとっては優しい存在として、ある人にとっては過去に罪を犯した犯罪者として。
視点が変われば印象も変わる、人間の多面性を改めて感じました。
私たちも、つい一面だけで人を判断してしまいがちです。でもこの物語を通して、「人は多面的な存在である」という視点の大切さに気づかされました。
どんな人にも、見る人の数だけ“顔”があり、背景があります。だからこそ、表面だけではなく、その人の内側にあるものを想像する想像力を持ち続けていたいと、改めて思いました。
まっすぐに生きること、報われない日々の先にある希望
特に心に残ったセリフがあります。
「まっすぐに生きてきたひとは、いつか愛される。
まっすぐに誰かを求めたひとは、いつかまっすぐに求められる。
背中を、追ってくれるひとが現れる。」
報われないことが多い世の中で、それでもまっすぐに生きるというのは、とても勇気のいることです。
それでもいつか誰かが見つけてくれる、手を差し伸べてくれる――
そんな未来への静かな希望が、この言葉には込められているように思いました。
自分の信じる道を進み、誰かを想う。その積み重ねは、たとえ今は報われなくても、きっと誰かの心に届くのだと思います。
タイミングのずれもまた、運命の一部なのかもしれない
この物語では、「ほんの少しのタイミングのずれ」が大きなすれ違いを生む場面も描かれています。
誰も悪くないのに、どうしようもなくすれ違ってしまう。あと少しだけ早ければ、もう少しだけ素直だったなら…。そんな“たられば”が、現実にもよくあることだと感じました。
それでも物語は、そうした過去も抱えながら、人は再び歩き出せることをそっと教えてくれます。運命に翻弄されてもなお、他者とつながり、思いを重ねていくことの大切さが、物語の随所に優しく描かれていました。
おわりに|誰かの“花”になれるように
『わたしの知る花』は、まるで花がそっと咲くように、静かに心を揺さぶる作品でした。人の温かさ、不器用さ、優しさや後悔、そして前を向く力。
さまざまな感情が込められたこの物語は、読者一人ひとりの中に、それぞれの“花”を咲かせてくれるように思います。
自分の大切な人を、過去を、そして今を、少し優しく見つめ直したくなる。そんな本に出会えて、本当によかったと思います。
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